
コロナ禍を機に急速に普及したテレワーク。場所や時間を問わず働ける利便性は、多くの企業や働き手に新たな価値をもたらしました。しかしその一方で、社外から業務にアクセスするというスタイルは、従来のセキュリティ対策だけでは対応しきれないリスクもはらんでいます。
本記事では、テレワーク時代において企業や個人が取り組むべきセキュリティ対策について、具体例とともに解説します。
- INDEX
- 1. なぜテレワークでセキュリティリスクが高まるのか?
- 2. テレワークにおける基本的なセキュリティ対策
- 3. 企業が導入を検討すべき先進的なセキュリティ対策
- 4. 中小企業にもできることから段階的に
1. なぜテレワークでセキュリティリスクが高まるのか?
オフィス環境であれば、企業が用意した閉じられたネットワークや物理的なセキュリティが一定の防御壁として機能します。しかし、テレワークでは以下のような要因からリスクが増大します。
- 公共Wi-Fiの使用:暗号化されていない通信を第三者に盗聴される可能性がある
- 私用端末の利用(BYOD):ウイルス対策やOSアップデートが不十分なことも
- 社外環境での情報漏洩:画面ののぞき見や資料の紛失など物理的な情報漏洩も
- 家庭内ネットワークの脆弱性:セキュリティ設定が甘く、外部からの侵入リスクが高い
2. テレワークにおける基本的なセキュリティ対策
VPN(仮想プライベートネットワーク)の導入
社内ネットワークへのアクセスを安全に行うためにVPNの導入は必須です。通信を暗号化することで、第三者による盗聴や改ざんを防ぎます。
二段階認証の導入
パスワードだけでなく、スマホアプリやSMSによる認証を組み合わせることで、なりすましログインを防止します。
エンドポイントセキュリティの強化
社員が使う端末(PCやスマホ)にウイルス対策ソフトを導入し、定期的にアップデートを行うことで、マルウェア感染のリスクを低減します。
クラウドサービスの適切な設定
Google WorkspaceやMicrosoft 365などのクラウドサービスには、データ共有の制限やアクセスログ管理など多くのセキュリティ機能が用意されています。設定ミスがないか定期的に確認しましょう。
社員へのセキュリティ教育
いくらシステム面で対策を講じても、社員の意識が低ければ情報漏洩のリスクは高まります。フィッシングメールの見分け方、重要情報の扱い方など、定期的な教育が欠かせません。
3. 企業が導入を検討すべき先進的なセキュリティ対策
テレワーク環境の浸透により、従来の「社内にいれば安全」という考え方は通用しなくなっています。ここでは、現代の脅威環境に対応するために企業が導入を検討すべき、より高度なセキュリティ対策を紹介します。
ゼロトラスト・セキュリティ(Zero Trust Security)
概要
「何も信頼しないこと」を前提とし、すべてのアクセスを検証・認証してから許可する考え方です。社内・社外問わず、ユーザー・端末・アプリケーションの挙動を常に監視・判断します。
導入メリット
- 境界防御だけでは防げない内部からのリスクにも対応
- リモートワークやクラウド活用に最適なセキュリティモデル
- 不正アクセスや乗っ取りに早期対応可能
導入時の注意点
- 初期設計が複雑で、段階的な導入が必要
- ID管理やアクセス制御の仕組みとの連携が重要(例:Azure AD、Okta)
EDR(Endpoint Detection and Response)
概要
PCやスマホなどのエンドポイントで発生する挙動を常時監視し、不審な活動を検知・分析・対処する仕組みです。ウイルス対策ソフトだけでは見逃される脅威にも対応可能です。
導入メリット
- ランサムウェアや未知のマルウェアに対する迅速な検出・封じ込め
- 攻撃の全体像(タイムライン)を可視化し、原因追跡が容易
- SOC(セキュリティ監視センター)との連携で運用自動化も可能
導入時の注意点
- 運用設計が必要で、アラートの取捨選択や対応フローの明確化が求められる
- 専門知識のある人材や外部ベンダーとの連携が有効
MDM(Mobile Device Management)/ UEM(統合エンドポイント管理)
概要
スマートフォンやノートPCなどの端末を一元管理し、情報漏洩や紛失に備える管理体制です。UEMではPC・スマホ・IoTなど複数デバイスを統合的に管理できます。
導入メリット
- 紛失・盗難時の遠隔ロックや初期化が可能
- アプリやOSのアップデート、利用制限なども集中管理できる
- BYOD(私物端末の業務利用)にも一定の安全性を確保できる
導入時の注意点
- 従業員のプライバシー配慮(私物端末への制限設定には透明性が必要)
- 業務システムやクラウド環境との連携設計が鍵
CASB(Cloud Access Security Broker)
概要
クラウドサービス利用時のセキュリティを仲介するツール。SaaSアプリ(Google Workspace、Microsoft 365など)へのアクセスを監視し、ポリシー違反を検知・制御します。
導入メリット
- シャドーIT(非許可クラウドサービスの使用)を可視化
- 機密データのアップロード制限やダウンロード禁止などの制御が可能
- クラウド利用に伴うコンプライアンス強化にもつながる
導入時の注意点
- 多様なクラウドサービスに対応しているかを事前確認
- 単体での導入ではなく、ID管理やDLP(情報漏洩防止)とセットで考えるのが望ましい
セキュリティ情報イベント管理(SIEM)+自動対応(SOAR)
概要
複数のセキュリティログやイベントを統合・分析するSIEMと、インシデント発生時の対応を自動化するSOARを組み合わせた高度な監視体制。
導入メリット
- 複数システムのログを一元的に分析でき、攻撃兆候を早期検知
- 重大インシデント時の対応(隔離・通知)を自動化し、人手不足に対応
導入時の注意点
- 検知ルールのチューニングが必要
- 初期投資・専門スキルが求められるため、中堅・大企業向け
4. 中小企業にもできることから段階的に
すべてを一度に導入するのは現実的ではありませんが、まずは「ゼロトラスト」や「EDR」「MDM」などの実装可能な範囲から段階的に始め、組織の成長に応じてCASBやSIEMまで拡張するのが理想です。
セキュリティは単なるコストではなく、信頼と事業継続の基盤です。テレワーク時代を見据え、今こそ戦略的な投資を検討してみてはいかがでしょうか。
まとめ
テレワークは、働き方の多様性を支える有効な手段である一方、企業の機密情報を外部に持ち出すリスクとも隣り合わせです。しかし、適切な技術と社員の意識改革を組み合わせることで、安全なテレワーク環境は十分に実現可能です。
今こそ、自社のセキュリティ対策を見直し、「守り」と「柔軟性」のバランスを見極めるタイミングではないでしょうか。